精神障害の診断後、「障害者枠の給料で一人暮らしはできるのか」「制度を使えば生活を安定させられるのか」と不安を感じる方は少なくありません。収入が下がることや、生活費をまかなえるかどうかは、障害者枠での就労を考えるうえで大きな悩みです。この記事では、精神障害者の障害者雇用における平均賃金や、一般雇用との違い、障害年金や自立支援医療などの制度について解説します。収入だけで判断せず、自分の体調や利用できる制度を含めて生活を考えるための参考にしてください。
精神障害の障害者枠の給料は実際いくら?
障害者枠で働く場合、まず気になるのは給料の水準です。結論からいうと、精神障害者の障害者雇用では、勤務時間や雇用形態によって収入に大きな差があります。平均だけで判断せず、自分がどのくらい働けそうかを考えながら確認することが大切です。
精神障害者の平均月収と年収の目安
厚生労働省の「令和5年度障害者雇用実態調査」によると、精神障害者の1か月の平均賃金は14万9,000円です。年収に単純換算すると、賞与を含めずに約178万円前後が目安になります。
ただし、この金額はフルタイム勤務と短時間勤務が含まれた平均です。週30時間以上働く方の平均賃金は19万3,000円、週20時間以上30時間未満では12万1,000円、週10時間以上20時間未満では7万1,000円とされています。
つまり、障害者枠の給料は「精神障害だから一律に低い」と決まるものではなく、勤務時間や仕事内容、雇用形態によって変わります。まずは体調に合わせて、どのくらいの勤務時間が現実的かを考えることが大切です。
一般雇用との収入差の目安
一般雇用と比べると、障害者枠の収入は低めになる傾向があります。その理由のひとつは、障害者枠では短時間勤務や契約社員、パート勤務の求人も多いためです。
一般雇用ではフルタイムの正社員として働く人も多く、賞与や各種手当がある場合もあります。一方で、障害者枠では体調への配慮を受けながら働ける反面、勤務時間が短くなることで月収も下がることがあります。
ただし、大手企業や専門職の障害者枠では、月収20万円以上を目指せる求人もあります。そのため、「障害者枠は必ず低収入」と決めつけず、求人票の勤務時間、時給、月給、賞与、正社員登用の有無を比較することが重要です。
雇用形態別・勤務時間別の収入の違い
雇用形態や勤務時間によって、受け取れる給料は大きく変わります。以下は、求人を比較するときの一般的な目安です。
- 正社員・フルタイム:月収18万〜25万円程度
- 契約社員・パートで週30時間以上:月収12万〜19万円程度
- 短時間パートで週20〜30時間未満:月収10万〜13万円程度
- 週20時間未満の短時間勤務:月収数万円〜8万円程度
体調が安定していれば、勤務時間を増やすことで収入が上がる可能性があります。一方で、無理に勤務時間を増やすと体調を崩し、長く働き続けることが難しくなる場合もあります。収入と体調のバランスを見ながら働き方を選びましょう。
障害者枠の給料が低くなりやすい理由
障害者枠の給料が低くなりやすい背景には、雇用形態や勤務時間、担当業務の内容などが関係しています。理由を知っておくと、求人を選ぶときの判断材料になります。
短時間勤務や非正規雇用が多い背景
障害者枠では、短時間勤務や非正規雇用の求人が多く見られます。精神障害のある方は、体調の波や通院、疲れやすさなどに配慮しながら働く必要がある場合があります。そのため、週3〜4日勤務や1日5〜6時間勤務といった働き方が選ばれることもあります。
このような働き方は、無理なく働き続けるうえで役立つ場合があります。しかし、勤務時間が短い分、月収は下がりやすくなります。また、契約社員やパート勤務では賞与がない場合もあり、年収で見ると一般雇用との差が広がることがあります。
業務の難易度や裁量が限られやすい構造
障害者枠では、負担を抑えた業務や定型的な作業を担当することがあります。これは、安定して働ける環境を整えるための配慮でもありますが、業務の難易度や責任範囲が限られると、給与水準が上がりにくい場合があります。
一方で、スキルや経験を積むことで担当業務が広がり、昇給や正社員登用につながる企業もあります。最初の給料だけで判断せず、将来的に業務範囲を広げられるか、評価制度があるかも確認しておくとよいでしょう。
最低賃金の減額特例制度の概要
日本には「最低賃金の減額特例制度」があります。これは、精神または身体の障害により著しく労働能力が低い場合などに、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることで、個別に最低賃金を下回る賃金が認められる制度です。
ただし、これはあくまで例外的な制度です。障害があるだけで自動的に最低賃金を下回るわけではありません。障害者枠で一般就労する場合も、原則として最低賃金以上の給与が支払われます。求人票を見るときは、時給や月給が地域の最低賃金を下回っていないか確認しましょう。
なお、就労継続支援B型は雇用契約を結ばない福祉サービスのため、最低賃金法の対象外です。支払われるものは賃金ではなく「工賃」と呼ばれます。
就労継続支援の賃金と障害者雇用の給料の比較
社会復帰や就労を考えるとき、「障害者雇用」と「就労継続支援」のどちらが自分に合っているか迷う方もいます。ここでは、障害者雇用、就労継続支援A型、就労継続支援B型の違いを整理します。
就労継続支援A型の平均賃金の目安
就労継続支援A型は、原則として雇用契約を結んで働く障害福祉サービスです。雇用契約があるため、最低賃金が適用されます。
厚生労働省の令和5年度実績では、就労継続支援A型事業所の平均賃金月額は86,752円です。A型では1日の利用時間が比較的短いことも多く、フルタイムの一般就労と比べると月収は低くなりやすい傾向があります。
一方で、支援を受けながら働けるため、体調や生活リズムを整えながら就労経験を積みたい方にとっては選択肢になります。一般就労へのステップとして利用する方もいます。
就労継続支援B型の平均工賃の目安
就労継続支援B型は、雇用契約を結ばず、就労の機会や生産活動の機会を提供する障害福祉サービスです。支払われるものは給料ではなく「工賃」です。
厚生労働省の令和5年度実績では、就労継続支援B型事業所の平均工賃月額は22,649円です。B型の工賃だけで一人暮らしの生活費をまかなうことは難しい場合が多く、障害年金や家族の支援、その他の制度と組み合わせて生活を考える必要があります。
B型は、収入を得ることだけでなく、生活リズムを整えること、社会参加の機会を持つこと、働くことに少しずつ慣れることを目的として利用されることがあります。
障害者雇用と就労支援の向き・不向きの判断基準
障害者雇用と就労継続支援のどちらが合っているかは、体調、通勤の安定性、収入の必要性、将来の目標によって異なります。
- 障害者雇用:収入をある程度確保したい方、週20〜30時間以上の勤務を目指せる方に向いています。
- 就労継続支援A型:一般就労には不安があるものの、雇用契約のある環境で働きたい方に向いています。
- 就労継続支援B型:まずは生活リズムや社会参加を優先し、無理のない範囲で作業に慣れたい方に向いています。
焦って一般就労を目指す必要はありません。体調や生活状況に合わせて、段階的にステップアップする考え方も大切です。
精神障害の障害者枠における職種・業種別の給料相場
障害者枠といっても、職種や業種によって給料は異なります。ここで紹介する金額はあくまで求人を比較する際の目安であり、地域、企業規模、勤務時間、経験、スキルによって変わります。
一般事務・データ入力系の給料水準
一般事務やデータ入力は、障害者枠でも求人が見つかりやすい職種のひとつです。主な業務には、PC入力、書類整理、郵送物の仕分け、簡単な電話対応などがあります。
月収の目安は、短時間勤務では10万〜13万円程度、フルタイムに近い勤務では15万円以上を目指せる場合もあります。未経験でも応募しやすい求人がありますが、WordやExcelなどの基本操作ができると、応募できる求人の幅が広がります。
IT・Webサポート系の給料水準
IT・Webサポート系は、障害者枠の中でも比較的収入を上げやすい場合がある職種です。具体的には、社内システムの操作補助、データ管理、Webサイトの更新、問い合わせ対応などがあります。
月収の目安は13万〜20万円程度ですが、スキルや経験がある場合はそれ以上の求人もあります。ITパスポートやMOSなどの資格が評価されることもあります。リモートワークに対応している求人もあるため、通勤の負担を減らしたい方にとって選択肢になる場合があります。
軽作業・物流系の給料水準
軽作業や物流倉庫での仕分け、梱包、検品なども、障害者枠で見られる職種です。作業内容が決まっていることが多く、慣れると取り組みやすいと感じる方もいます。
月収の目安は、勤務時間によって9万〜13万円程度になることがあります。時給制の求人が多いため、働く時間が増えるほど収入も増えやすいです。ただし、立ち仕事や体を使う作業が含まれる場合もあるため、体力面や体調との相性を確認しておきましょう。
専門資格を活かせる職種の給料水準
社会福祉士、精神保健福祉士、看護師、簿記、調理師などの資格を持っている場合は、資格を活かせる求人を探すことで、収入が上がる可能性があります。
相談支援補助、事務補助、経理補助、医療・福祉分野のサポート業務などでは、経験や資格が評価されることがあります。ただし、専門性の高い仕事は責任や精神的負担が大きくなる場合もあります。収入だけでなく、仕事内容や配慮内容も含めて検討しましょう。
障害者枠の給料だけで生活ができるかの判断基準
障害者枠の給料で一人暮らしができるかどうかは、給料の金額だけでは判断できません。住んでいる地域、家賃、医療費、障害年金の有無、利用できる制度によって大きく変わります。
一人暮らしに必要な月収の目安
一人暮らしに必要な生活費は、都市部か地方かによって差があります。都市部では月15万〜20万円程度を見込む方が安心です。地方や家賃が低い地域では、月12万〜15万円程度で生活できる場合もあります。
- 家賃:4万〜7万円程度
- 食費:2万〜3万円程度
- 光熱費:1万〜1万5,000円程度
- 通信費:5,000円〜1万円程度
- 医療費・日用品・交通費:2万〜3万円程度
障害者枠の給料だけで生活費をすべてまかなうのが難しい場合は、障害年金、自立支援医療、家賃に関する支援制度などを組み合わせて考えることが大切です。
障害基礎年金と給与収入を組み合わせた生活モデル
障害基礎年金は、働きながら受け取れる場合があります。ただし、受給できるかどうかは障害の状態、初診日、保険料納付要件などによって異なります。また、20歳前の傷病による障害基礎年金では、本人の所得によって支給額が調整される場合があります。
令和8年度の障害基礎年金は、2級が年額847,300円、1級が年額1,059,125円です。月額に換算すると、2級は約70,608円、1級は約88,260円が目安です。子がいる場合は、条件に応じて子の加算が付くことがあります。
たとえば、月収10万円の仕事をしながら障害基礎年金2級を受け取る場合、月の収入は合計で約17万円になります。家賃や医療費を抑えられれば、一人暮らしを検討できる可能性があります。ただし、実際の生活が成り立つかどうかは、地域や支出によって変わります。
自立支援医療による医療費負担の軽減
精神障害のある方は、通院や薬にかかる医療費が家計に影響することがあります。自立支援医療(精神通院医療)を利用すると、対象となる通院医療の自己負担が原則1割に軽減されます。
また、所得に応じて月額の自己負担上限が設定される場合があります。負担額は世帯の所得や自治体での認定内容によって変わるため、詳しくは主治医、医療機関の相談窓口、市区町村の福祉窓口で確認しましょう。
住宅確保給付金など家賃支援制度の活用
家賃の負担を軽減できる制度として、住宅確保給付金があります。これは、離職や収入減少などにより住居を失うおそれがある方に対して、一定期間、家賃相当額が支給される制度です。
利用には、収入や資産、求職活動などの要件があります。支給期間や上限額は自治体や世帯状況によって異なるため、市区町村の自立相談支援機関や福祉窓口で確認することが必要です。
また、生活に困っている場合は生活保護、生活福祉資金貸付制度、自治体独自の支援などが関係する場合もあります。制度ごとに目的や条件が異なるため、早めに相談しておくと安心です。
精神障害の障害者枠で給料を上げるための方法
障害者枠で働く場合でも、働き方やスキルの積み上げによって収入を上げられる可能性があります。ただし、体調を崩して働けなくなると生活が不安定になりやすいため、無理のない範囲で取り組むことが大切です。
資格取得によるスキルと収入の底上げ
資格取得は、応募できる求人の幅を広げる方法のひとつです。事務系ではMOSや簿記、IT系ではITパスポートなどが評価される場合があります。
ただし、資格を取れば必ず給料が上がるわけではありません。資格が仕事内容と合っているか、実務で活かせるかが重要です。体調が安定している時期に、短時間ずつ学習を進めると続けやすくなります。
正社員登用制度がある求人の選び方
最初から正社員を目指すのが難しい場合でも、正社員登用制度のある求人を選ぶことで、将来的に収入が上がる可能性があります。
求人票を見るときは、「正社員登用制度あり」だけでなく、「登用実績あり」と書かれているかも確認しましょう。面接では、登用までの目安期間、評価基準、過去の実績を質問しておくと、入社後の見通しを立てやすくなります。
大手企業・好条件求人を探す際のポイント
大手企業の障害者枠は、給与や福利厚生、休暇制度、配慮体制が整っている場合があります。ただし、応募者も多く、選考では職務経験やスキル、安定して働ける見通しが見られることがあります。
求人を探す際は、ハローワークだけでなく、障害者雇用に対応した転職サービスや就労支援機関を併用する方法もあります。応募書類を整え、自分に必要な配慮を整理して伝えられるようにしておくと、入社後のミスマッチを防ぎやすくなります。
障害者枠で収入を安定させながら自立を目指すモデルケース
ここでは、障害者枠で働きながら一人暮らしを目指す場合のモデルケースを紹介します。実際の生活費や使える制度は人によって異なるため、あくまで考え方の参考としてご覧ください。
精神障害のある20代が一人暮らしを目指すケース
双極性障害のある26歳のAさんは、就労移行支援を利用したあと、障害者枠で週4日・1日6時間の仕事を始めました。月収は約12万円です。障害基礎年金2級を受け取れる場合、月の収入は合計で約19万円前後になります。
地方都市で家賃を4万5,000円程度に抑え、自立支援医療を利用して通院費の負担を軽くできれば、一人暮らしを検討できる可能性があります。ただし、体調の波がある場合は、急な欠勤や収入減に備えて、貯金や相談先を確保しておくことも大切です。
就労継続支援A型から一般就労を目指すケース
統合失調症のある29歳のBさんは、最初から一般就労を目指すのではなく、就労継続支援A型を利用して生活リズムを整えるところから始めました。A型で一定期間働いたあと、ハローワークや支援機関に相談しながら障害者枠の事務補助求人に応募しました。
一般就労に移った後の月収が14万円程度になり、障害年金や自立支援医療を組み合わせることで、生活の見通しを立てやすくなりました。住宅確保給付金などの家賃支援制度については、利用できる条件が限られるため、必要に応じて自治体の窓口で確認することが大切です。
精神障害の障害者枠の給料と制度を知り、自分に合った働き方を考えよう
精神障害のある方が障害者枠で働く場合、給料は勤務時間や雇用形態によって大きく変わります。厚生労働省の調査では、精神障害者の1か月の平均賃金は14万9,000円ですが、短時間勤務ではそれより低くなる場合もあります。
一人暮らしを考えるときは、給料だけでなく、障害基礎年金、自立支援医療、家賃に関する支援制度などを含めて生活設計を立てることが大切です。就労継続支援A型やB型を利用しながら、段階的に一般就労を目指す方法もあります。
大切なのは、「障害者枠だから無理」と決めつけないことです。一方で、制度や収入には個人差があるため、無理のない働き方を選ぶ必要があります。まずはハローワーク、自治体の福祉窓口、主治医、就労支援機関などに相談し、自分に合った働き方と生活の形を整理してみましょう。
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