「精神障害があっても働けるのか」「体調に波がある状態で仕事を続けられるのか」と不安を感じている方もいるのではないでしょうか。
精神障がいの症状や生活への影響は一人ひとり異なります。体調に合う勤務時間や仕事内容を選び、必要な配慮や支援を受けながら働いている方も少なくありません。
一方で、就労を始める時期や適した働き方は、病名だけで決められるものではありません。現在の体調、治療状況、生活リズム、職場環境などを踏まえて検討することが大切です。
この記事では、精神障がいのある方が仕事で感じやすい困りごと、働き方を選ぶポイント、就労支援サービス、相談機関、経済的な支援制度について解説します。
精神障がいがあっても働くことはできる?
精神障がいのある方の雇用は長期的に増加している
厚生労働省が公表している障害者雇用状況の集計結果では、民間企業で雇用される精神障害者の数は長期的に増加しています。
このデータからは、精神障がいのある方の雇用機会が以前より広がっていることがわかります。ただし、雇用者数が増えているからといって、誰もが同じ条件で働けるわけではありません。
体調や得意不得意に合う仕事を選び、勤務時間や業務内容について職場と相談することが、働き続けるための重要なポイントです。
働き始める時期は病名だけでは決められない
通院中や治療中であっても、主治医や支援者と相談しながら就職準備を進める場合があります。一方で、症状が強いときや生活リズムが大きく乱れているときは、治療や休養を優先した方がよい場合もあります。
最初からフルタイム勤務を目指す必要はありません。職場体験や短時間勤務などを通じて、自分がどの程度の時間や環境であれば負担を抑えて取り組めるかを確認する方法もあります。
精神障がいのある方が仕事で感じることのある困りごと
仕事上の困りごとは、障がい名だけで決まるものではありません。症状、服薬の影響、仕事内容、人間関係、職場環境などによって異なります。
体調や気分に波がある
精神障がいの症状や治療状況によっては、日によって集中力や意欲、体調が変わることがあります。本人の意志だけでは調整しにくく、予定どおりに出勤できない場合もあります。
勤務日数や勤務時間の調整、定期的な面談、体調不良時の連絡方法などを事前に相談しておくと、体調の変化に対応しやすくなります。
疲労が蓄積しやすい
症状や服薬の影響、通勤、人とのやり取り、職場での緊張などによって、疲れを感じやすくなる場合があります。
働き始めは無理に勤務時間を増やさず、帰宅後や休日の体調も確認することが大切です。睡眠時間、食事、疲労感、気分などを記録すると、自分が負担を感じやすい状況を整理しやすくなります。
人間関係や周囲の目が負担になる
「障がいについて伝えたら、周囲の態度が変わるのではないか」「配慮を求めると迷惑に思われるのではないか」と心配する方もいます。
障がいを職場へどこまで伝えるかは、希望する働き方や必要な配慮によって異なります。支援機関に相談し、伝える内容やタイミングを事前に整理しておくと安心です。
精神障がいがある方の働き方を選ぶポイント
短時間勤務から始める方法もある
長期間仕事から離れていた方や、体力に不安がある方は、短時間勤務から始める方法があります。
例えば、週2〜3日や1日3〜4時間程度から始め、仕事をした日だけでなく翌日の体調も確認しながら勤務時間を検討します。ただし、実際に選べる勤務日数や時間は、求人の労働条件や職場の制度によって異なります。
短時間勤務が合う方もいれば、勤務日を分散させるより、決まった曜日にまとめた方が生活リズムをつくりやすい方もいます。自分の状態に合う形を支援者と一緒に検討しましょう。
障害者向け求人と一般求人の違いを確認する
仕事探しでは、障害者向け求人と一般求人の両方を検討できます。
- 障害者向け求人:障がいや必要な配慮を職場に伝えたうえで働くことを前提とする求人です。応募時に障害者手帳などの確認を求められる場合があります。
- 一般求人:職種や求人数の選択肢が広い一方、障がいを伝えずに働くことも、必要な範囲で伝えて配慮を相談することもあります。
合理的配慮とは、障がいのある方が仕事を進めるうえで支障となる点を減らすために、職場が過重な負担とならない範囲で行う調整です。業務指示を文章で伝える、休憩の取り方を調整する、通院日を考慮するなどが例として挙げられます。
合理的配慮は一般求人で働く場合にも対象となりますが、具体的な配慮を受けるためには、職場へ必要な情報を伝えて相談することが一般的です。
体調のパターンに合う勤務条件を探す
求人票を見るときは、給与や仕事内容だけでなく、勤務時間、休日、通勤時間、業務変更の頻度なども確認しましょう。
- 朝に体調を崩しやすい場合は、始業時間を調整できるか確認する
- 連続勤務で疲れやすい場合は、休日を分散できるか確認する
- 通勤が負担になる場合は、在宅勤務や時差出勤に対応しているか確認する
- 通院が必要な場合は、休暇や勤務日の調整が可能か確認する
希望する条件をすべて満たす職場が見つかるとは限りません。自分にとって特に重要な条件と、調整できる条件を分けておくと、求人を比較しやすくなります。
合いやすい仕事環境と負担になりやすい仕事環境
仕事内容や予定が明確な環境
精神障がいのある方の中には、仕事内容や優先順位が明確な環境で取り組みやすいと感じる方がいます。
- 作業手順や期限が明確になっている
- 急な予定変更が少ない
- 一度に担当する業務量を調整できる
- 困ったときの相談先が決まっている
- 休憩のタイミングを取りやすい
データ入力、書類整理、清掃、仕分け、製造補助などが例として挙げられることがあります。ただし、同じ職種でも、職場によって作業速度、対人対応、騒音、業務量は異なります。
職種名だけで判断せず、実際の仕事内容や職場環境を確認することが重要です。
負担になる可能性のある環境
次のような環境は、人によって心理的・身体的な負担が大きくなる場合があります。
- 達成が難しいノルマがある
- 指示や役割分担が曖昧である
- 複数の作業を頻繁に切り替える必要がある
- 勤務時間や休日が不規則である
- 強い感情を受け止める対応が多い
- 相談しても業務調整が難しい
これらの仕事を一律に避ける必要があるわけではありません。得意な業務であったり、適切なサポートが受けられたりすれば、負担を抑えられることもあります。
働き始めるまでの段階的なステップ
現在の体調と生活リズムを整理する
就職活動を始める前に、現在の生活状況を確認します。
- 起床・就寝時間は安定しているか
- 週に何日程度外出できているか
- 体調が安定しやすい時間帯はいつか
- どのような場面で疲れや不調を感じやすいか
- 通院や服薬と勤務を両立できそうか
現状を整理すると、希望する勤務日数や時間、必要な配慮を考えやすくなります。
主治医や支援者に就労希望を伝える
通院中の場合は、働くことを考えていると主治医に伝えましょう。現在の体調で就職活動を始めてもよいか、どの程度の勤務時間が考えられるかを相談します。
障害福祉サービスを利用する際には、自治体の支給決定にあたり、診断書や医師の意見書などを求められる場合があります。必要書類は自治体や本人の状況によって異なるため、市区町村の障害福祉窓口などへ確認してください。
職場体験や実習を活用する
就労移行支援や地域の就労支援機関では、事業所や本人の状況に応じて、職場体験や実習を行う場合があります。
体験や実習では、仕事内容だけでなく、通勤による疲れ、職場の音や人の多さ、指示の受け取りやすさなども確認できます。
体験後は、できたことだけでなく、負担を感じたことや必要だった配慮も整理しましょう。
応募や面接に向けた準備をする
求人へ応募する前に、次の内容を整理しておくと面接で説明しやすくなります。
- 希望する勤務日数と勤務時間
- 得意な作業と負担を感じやすい作業
- 通院や体調管理のために必要な条件
- 職場に相談したい配慮
- これまでの療養期間や支援利用歴の伝え方
就労移行支援、ハローワーク、障害者就業・生活支援センターなどでは、応募書類の作成や面接練習を受けられる場合があります。
精神障がいのある方が利用できる就労支援サービス
障害者総合支援法に基づく就労系障害福祉サービスには、就労選択支援、就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型、就労定着支援があります。
対象者や利用手続きは、本人の状態や自治体の支給決定によって異なります。
就労選択支援
就労選択支援は、短期間の作業体験や面談などを通じて、本人の希望、得意なこと、負担になりやすいこと、必要な配慮を整理するサービスです。
就労移行支援、A型、B型などの中から、どのような働き方や支援が合うかを検討するために活用されます。
現在は、新たに就労継続支援B型の利用を希望する場合、原則として就労選択支援によるアセスメントを受ける仕組みがあります。
ただし、50歳に達している方、障害基礎年金1級を受給している方、就労経験があり年齢や体力の面で一般企業に雇用されることが難しくなった方などは、就労選択支援によるアセスメントを経ずにB型を利用できる場合があります。詳しい対象要件は、市区町村の障害福祉窓口などで確認してください。
就労移行支援
就労移行支援は、一般企業などへの就職を希望し、就労が見込まれる方を対象とするサービスです。
主な支援内容には、生活リズムの調整、パソコンや作業スキルの訓練、職場実習、応募書類の作成、面接練習、就職後の定着支援などがあります。
標準的な利用期間は2年間です。必要性が認められた場合に延長できることがありますが、自治体による支給決定が必要です。
障害福祉サービスの自己負担には、所得に応じた月額上限があります。市町村民税非課税世帯など、自己負担が0円となる場合もあります。
就労継続支援A型
就労継続支援A型は、一般企業で働くことが難しいものの、雇用契約に基づいて働くことが可能な方を対象とするサービスです。
利用者は事業所と雇用契約を結ぶため、労働関係法令が適用され、原則として最低賃金以上の賃金が支払われます。
仕事内容には、事務作業、清掃、飲食関連、軽作業、パソコンを使用する業務などがあります。勤務日数や時間は事業所の労働条件によって異なるため、求人票や見学時に確認する必要があります。
就労継続支援B型
就労継続支援B型は、一般企業や雇用契約に基づく働き方が難しい方に、就労の機会や生産活動の機会を提供する障害福祉サービスです。
事業所との雇用契約は結ばず、生産活動の成果などに応じて「工賃」が支払われます。利用日数、利用時間、工賃、作業内容は事業所や本人の状況によって異なります。
体調に合わせて通所日数を相談できる事業所もありますが、利用方法や支援方針は事業所ごとに違います。見学や体験を通じて確認することが大切です。
就労定着支援
就労定着支援は、就労移行支援、就労継続支援などを利用して一般就労へ移行した方に対し、仕事を続けるうえで生じる生活面や職場での課題を支援するサービスです。
就職後6か月を経過した方が対象となり、利用期間は最大3年間です。支援員が本人との面談を行い、必要に応じて勤務先、医療機関、福祉サービスなどと連絡調整を行います。
精神障がいのある方が相談できる支援機関
ハローワークの障害者専門窓口
ハローワークには、障がいのある方の仕事探しを支援する専門窓口があります。
求人紹介だけでなく、応募書類の作成、面接対策、支援機関との連携、就職後の定着支援などを受けられる場合があります。障害者手帳がない方でも専門窓口を利用できますが、求人への応募条件はそれぞれ異なります。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターでは、職業相談や職業評価、職業準備支援、ジョブコーチによる職場適応支援などを行っています。
本人への支援だけでなく、事業主に対する雇用管理や職場環境についての助言も行います。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、仕事と生活の両方を一体的に支援する機関です。「なかぽつ」と呼ばれることもあります。
就職活動、職場定着、生活リズム、健康管理、金銭管理などについて相談できます。センターだけで対応するのではなく、必要に応じて医療機関、福祉事務所、ハローワークなどにつなぐ役割も担います。
市区町村の障害福祉窓口・相談支援事業所
就労系障害福祉サービスを利用したい場合は、市区町村の障害福祉窓口や相談支援事業所にも相談できます。
利用できるサービス、申請方法、必要書類は自治体や本人の状況によって異なります。利用を希望するサービスが決まっていない段階でも相談可能です。
働き始める前に確認したい経済的な支援制度
障害年金を受給しながら働ける場合がある
障害年金は、働き始めたことだけを理由に自動的に支給停止となる制度ではありません。
障害年金の認定や更新では、障害の状態、日常生活への影響、仕事内容、勤務時間、職場で受けている援助などが総合的に確認されます。そのため、就労状況が変わった場合でも、支給継続や等級については個別に判断されます。
なお、20歳前の傷病による障害基礎年金には、本人所得による支給制限があります。不明な点は年金事務所、主治医、社会保険労務士などに確認しましょう。
利用できる可能性のある制度を確認する
- 自立支援医療(精神通院医療):精神疾患の継続的な通院医療にかかる自己負担が原則1割となる制度です。所得に応じた月額上限があります。
- 傷病手当金:健康保険の被保険者が、業務外の病気やけがによって働けず、給与を受けられない場合などに支給されます。支給期間は、同一の病気やけがについて支給開始日から通算1年6か月です。
- 雇用保険の基本手当:雇用保険の加入期間などの要件を満たし、働く意思と能力がありながら就職できない場合に対象となります。障がいの状態や離職理由などによって、給付日数や手続きが異なる場合があります。
制度ごとに対象者や申請先が異なります。年金事務所、加入している健康保険、ハローワーク、市区町村の窓口などで確認してください。
職場に長く定着するために意識したいこと
治療と仕事を両立できる予定を立てる
仕事を始めると、通院時間を確保しにくくなる場合があります。求人を選ぶ段階で、通院日や診療時間と勤務を両立できるか確認しておきましょう。
服薬による眠気などが仕事に影響する場合や、体調に変化がある場合は、自己判断で服薬を中断せず、主治医へ相談してください。
職場内外に相談先を持つ
職場では、上司、人事担当者、産業医など、困ったときに相談できる相手を確認しておきます。
職場外では、主治医、就労支援員、障害者就業・生活支援センター、家族など、状況に応じて相談できる相手を確保しておくと、一人で問題を抱え込むことを防ぎやすくなります。
体調と仕事の記録を残す
出勤できた日数、疲れを感じた業務、相談できたこと、うまく対応できたことなどを記録しておくと、自分に合う働き方を振り返りやすくなります。
できなかったことだけでなく、継続できたことや工夫できたことも確認しましょう。記録は、勤務時間や業務内容について職場や支援者と相談する際の材料にもなります。
まとめ|精神障がいがある方の働き方は一つではない
精神障がいがあっても、体調や得意不得意に合う仕事を選び、必要な支援や配慮を受けながら働いている方はいます。
ただし、適した勤務時間、仕事内容、働き始める時期は一人ひとり異なります。最初からフルタイム勤務を目指すのではなく、職場体験、短時間勤務、就労支援サービスなどを活用しながら検討する方法もあります。
就労選択支援、就労移行支援、就労継続支援A型・B型など、それぞれ対象者や支援内容が異なります。制度の利用を考えている場合は、主治医、ハローワーク、市区町村の障害福祉窓口、地域の就労支援機関などに相談し、現在の体調に合う方法を整理することから始めましょう。
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