精神疾患の療養中に、夜になっても眠れず、朝や昼まで起き上がれない状態が続くことがあります。「生活を整えたいのにできない」と、自分を責めてしまう方もいるかもしれません。
しかし、睡眠と覚醒のリズムがずれる背景には、精神疾患の症状、服用している薬、日中の光や活動量、生活環境、ほかの睡眠障害など、複数の要因が考えられます。本人の意志だけで解決できるとは限りません。
大切なのは、無理に一晩で生活を戻そうとせず、主治医と相談しながら少しずつ整えていくことです。この記事では、療養中に昼夜逆転が起こる主な要因、自宅でできる対策、医療機関へ相談する目安、利用できる外部支援について解説します。
精神疾患の療養中に昼夜逆転が起こる主な要因
昼夜逆転は一つの原因だけで起こるとは限りません。病状や生活環境によって、複数の要因が重なっている場合があります。
精神疾患の症状による睡眠の変化
うつ病などでは、寝つけない、途中で目が覚める、朝早く目が覚めるといった不眠が現れることがあります。一方で、長時間眠ってしまう、日中も強い眠気が続くといった過眠が見られる場合もあります。
双極性障害では、うつ状態の時期に睡眠時間が長くなることがある一方、躁状態や軽躁状態では、睡眠時間が短くても疲れを感じにくくなることがあります。
このように、睡眠の変化は疾患の種類やその時点の状態によって異なります。昼夜逆転だけで病状を判断することはできないため、睡眠の変化が続く場合は主治医に伝えることが大切です。
薬による眠気や不眠
精神疾患の治療に使われる薬の中には、眠気が出るものもあれば、寝つきにくさや落ち着かなさにつながることがあるものもあります。同じ薬でも、影響の出方には個人差があります。
薬を飲み始めてから日中の眠気が強くなった場合や、薬の変更後に夜眠れなくなった場合は、診察時に具体的な状況を伝えましょう。薬を飲む時間や種類、量などを自己判断で変更したり、中止したりしないことが重要です。
日中の光や活動量が少ない生活
睡眠と覚醒のリズムは、光を浴びる時間、食事、運動、社会的な予定などの影響を受けます。
療養中に外出が減り、日中も暗い室内や寝床で過ごす時間が長くなると、昼と夜のメリハリがつきにくくなる場合があります。反対に、夜遅くまで明るい照明やスマートフォンの画面を見ていると、寝つく時刻が遅くなることがあります。
ほかの睡眠障害や身体の病気
朝起きられない、日中に強い眠気があるといった症状は、精神疾患や生活習慣だけが原因とは限りません。
概日リズム睡眠・覚醒障害、睡眠時無呼吸、むずむず脚症候群などの睡眠障害や、身体の病気が関係している場合もあります。大きないびき、睡眠中の呼吸停止、朝の頭痛、日中の耐え難い眠気などがある場合は、医療機関へ相談しましょう。
昼夜逆転が続くと起こりやすい困りごと
日中の眠気や集中しにくさ
睡眠時間が不足していたり、眠る時間帯が生活上の予定と合っていなかったりすると、日中に強い眠気や頭の働きにくさを感じることがあります。
集中力や判断力が低下すると、家事、通院、手続きなどの負担が大きく感じられる場合があります。予定をこなせなかったことが、焦りや自己否定につながることもあります。
気分や身体の状態への影響
睡眠の状態と気分は相互に影響します。眠れない状態が続くことで気分が落ち込みやすくなったり、精神疾患の症状が不安定になったりする場合があります。
また、倦怠感、頭痛、めまい、動悸、胃腸の不調などが現れることもあります。ただし、これらの症状には別の病気や薬の影響が関係している可能性もあります。症状が強い場合や長引く場合は、睡眠の問題だけと考えずに医療機関へ相談してください。
生活習慣を変える前に主治医へ相談したいケース
昼夜逆転がある場合でも、すべての方が同じ方法で生活を整えればよいわけではありません。次のような状態がある場合は、無理に起床時刻を早めたり睡眠時間を削ったりせず、主治医へ早めに相談しましょう。
- 睡眠時間が極端に短いのに疲れを感じず、活動的になっている
- 話す量が増えた、考えが次々に浮かぶ、買い物や行動が衝動的になった
- 薬を変更した後から、強い眠気や不眠が現れた
- 何日もほとんど眠れない状態が続いている
- 日中の眠気が強く、意識が途切れそうになる
- 大きないびきや睡眠中の呼吸停止を指摘された
- 気分の落ち込みが強く、自分を傷つけたい気持ちがある
自分を傷つける行動が差し迫っている、具体的な方法を考えている、すでに自分を傷つけてしまったなど、緊急性が高い場合は次回の診察を待たないでください。一人にならず、家族や支援者など周囲の人に助けを求め、119番へ連絡するか、救急医療機関を受診してください。
特に、睡眠時間が少ないにもかかわらず活動性が高まっている場合は、双極性障害の躁状態や軽躁状態が関係している可能性があります。生活習慣の問題と決めつけず、治療を優先することが大切です。
療養中にできる生活リズムの整え方
生活習慣の見直しは、病状や治療方針に反しない範囲で行います。一度にすべてを変えるのではなく、取り組みやすいものを一つずつ試しましょう。
起床時刻を大きく変えすぎない
睡眠と覚醒のリズムを整えるためには、起床時刻を毎日大きく変えすぎないことが役立つ場合があります。
ただし、昼まで眠っている方が突然早朝に起きようとすると、睡眠不足が強くなり、心身の負担になることがあります。まずは現在より少し早い時間を目安にするなど、無理のない範囲で調整しましょう。
主治医から睡眠や起床時刻について指示を受けている場合は、その方針を優先してください。
起床後や日中に明るい光を取り入れる
朝や日中に明るい光を浴びることは、睡眠と覚醒のリズムを整えるうえで役立ちます。起きたらカーテンを開け、体調がよければ窓辺で過ごしたり、短時間屋外に出たりしてみましょう。
室内の明るさは、天候、季節、窓からの距離などによって異なります。カーテンを開けるだけで十分とは限らないため、無理のない範囲で日中の自然光を取り入れることがポイントです。
高照度光療法に使う専用機器は、一般的な朝の光とは異なります。双極性障害などでは光を浴びる時間や強さに注意が必要な場合があるため、自己判断で治療用機器を使用せず、医師に相談してください。
食事の時間を大きくずらさない
食事の時間をある程度一定にすることも、生活に昼夜の区切りをつける方法の一つです。
朝に食欲がない場合は、無理に多く食べる必要はありません。飲み物や消化しやすいものなど、体調に合わせて取り入れましょう。服薬との関係で食事時間の指示がある場合は、医師や薬剤師の説明に従ってください。
日中に寝床以外で過ごす時間をつくる
療養中は、横になって休むことが必要な日もあります。その一方で、体調が許す日は、日中の一部を椅子やソファなど寝床以外の場所で過ごすと、休む時間と活動する時間を分けやすくなります。
読書、音楽、着替え、簡単な家事など、負担の少ない活動から始めましょう。運動を制限されている場合や、動くことで症状が強くなる場合は、主治医へ相談してください。
夜の照明とスマートフォンの使い方を見直す
夜に強い光を長時間浴びると、寝つく時刻が遅くなる場合があります。就寝前は部屋の照明を少し暗くし、スマートフォンやパソコンを使う時間を短くすることを検討しましょう。
ナイトモードや暖色表示にしても、画面の明るさや使用時間による影響がなくなるわけではありません。使用が必要な場合は、画面の明るさを下げ、顔から離し、寝床に持ち込まないなどの工夫があります。
昼寝は長くなりすぎないようにする
日中に長時間眠ると、夜に眠りにくくなることがあります。昼寝が必要な場合は、遅い時間帯を避け、長くなりすぎないようにしましょう。
ただし、病状や薬の影響で強い眠気がある方に、無理に昼寝を我慢することは適切でない場合があります。眠気が強い状態が続く場合は、睡眠時間と服薬状況を記録して主治医へ相談してください。
睡眠の記録をつける
寝床に入った時刻、眠ったと思われる時刻、起床時刻、昼寝、服薬、日中の眠気などを簡単に記録すると、睡眠の傾向を確認しやすくなります。
記録は生活を完璧に管理するためではなく、主治医に状態を伝えるための資料として活用できます。細かく記録することが負担になる場合は、起床時刻とおおよその睡眠時間だけでも構いません。
無理のない外出習慣をつくる方法
体調が安定している場合は、短い外出や日中の予定が生活に区切りをつけるきっかけになることがあります。
小さな予定から始める
最初から長時間外出する必要はありません。玄関の外に出る、郵便物を取りに行く、家の周辺を短時間歩くなど、負担の少ない行動から始めましょう。
外出後に強い疲労が残る場合は、距離や時間が現在の体調に合っていない可能性があります。「できるだけ多く動く」のではなく、翌日に負担を残しにくい範囲を探すことが大切です。
通院や支援の予定を生活の目安にする
通院、訪問支援、デイケアなどの予定があると、その時間に合わせて準備する必要が生まれます。定期的な予定が、起床や食事の目安になる場合があります。
ただし、予定に合わせるために睡眠時間を大幅に削ることは避けましょう。朝の予定が負担になる場合は、予約時間や利用時間について支援者へ相談する方法もあります。
一人で整えることが難しい場合に利用できる支援
生活リズムを本人だけで整えることが難しい場合は、医療や福祉の支援を利用できます。必要な支援は、病状、生活状況、就労への希望によって異なります。
医療機関や地域の相談支援
主治医への相談に加えて、地域によっては精神科デイケア、訪問看護、相談支援事業所、地域活動支援センターなどを利用できる場合があります。
これらの支援では、生活状況の確認、通院や服薬の支援、日中活動の機会づくりなどが行われます。サービスの内容や利用条件は地域や機関によって異なるため、市区町村の障害福祉窓口や相談支援事業所で確認してください。
就労を希望する場合の就労継続支援A型・B型
就労継続支援A型・B型は、一般企業で働くことが難しい障害のある方に対し、働く機会や生産活動の機会、就労に必要な支援を提供する障害福祉サービスです。睡眠障害や精神疾患を治療する医療サービスではありません。
A型では事業所と雇用契約を結び、労働者として働きながら支援を受けます。勤務日数、勤務時間、欠勤や早退などは、雇用契約や就業規則、本人の状態を踏まえて決まります。
B型では雇用契約を結ばず、生産活動などを通じて支援を受け、活動に応じて工賃が支払われます。利用日数や時間は、本人の希望や状態、支給決定、個別支援計画、事業所の受け入れ体制などによって異なります。
A型とB型は、体調だけで自由に選択するものではありません。本人の就労に関する希望や状態を確認し、市区町村による支給決定を受けたうえで利用します。事業所を選ぶ際は、利用時間、欠席時の取り扱い、作業内容、支援体制などを事前に確認することが大切です。
障害福祉サービスの自己負担には、所得区分に応じた月額上限があります。所得によっては自己負担が生じない場合もありますが、食費、交通費、材料費などが別途必要になることがあります。具体的な金額は、市区町村や事業所へ確認してください。
昼夜逆転が改善しない場合は睡眠の専門家へ相談する
概日リズム睡眠・覚醒障害の可能性
本人が望む時刻に眠ったり起きたりすることが長期間難しく、通院、仕事、学校などに支障が出ている場合は、概日リズム睡眠・覚醒障害などの睡眠障害が関係している可能性があります。
単に夜更かしが続いている状態と、治療が必要な睡眠障害は、本人だけで区別することが難しい場合があります。睡眠の記録を持参し、精神科、心療内科、睡眠外来などで相談しましょう。
治療は自己判断で行わない
概日リズム睡眠・覚醒障害の治療では、状態に応じて、光を浴びる時刻の調整や薬物療法などが検討されます。
光は浴びる時刻によって体内時計に与える影響が異なります。また、使用する薬や適切な時間帯も症状によって異なります。治療用の強い光を発する機器や薬を自己判断で使用せず、専門的な診断と指導を受けてください。
精神疾患の療養中の昼夜逆転は一人で抱え込まないことが大切
精神疾患の療養中に起こる昼夜逆転には、病状、薬、光を浴びる時間、活動量、生活環境、ほかの睡眠障害などが関係している場合があります。意志の弱さだけが原因ではありません。
朝や日中に光を取り入れる、起床時刻を大きく変えすぎない、夜の照明やスマートフォンの使い方を見直すといった方法は、生活リズムを整える助けになることがあります。ただし、効果や適した方法には個人差があります。
生活習慣を見直しても眠れない状態が続く場合、薬の変更後に睡眠が乱れた場合、睡眠時間が少ないのに活動性が高まっている場合などは、無理に自力で整えようとせず主治医へ相談しましょう。就労や日中活動を希望する場合は、医療機関や相談支援機関と話し合いながら、自分の状態に合う支援を検討することが大切です。
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