「せっかく就職できたのに、またすぐ辞めてしまった」「どうすれば本人に合う働き方を見つけられるのだろう」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
仕事が続かない背景には、本人の努力不足だけでなく、知的障害の特性や職場環境との相性が関係している場合があります。
この記事では、知的障害のある方が仕事を続けにくくなる原因や、職場環境の整え方、合理的配慮、ジョブコーチや就労支援サービスなどの選択肢について解説します。
本人に合った働き方を考えるための一つの参考として、無理のない形で読み進めてみてください。
知的障害のある方の仕事が続かない原因とは何か
知的障害のある方が仕事を続けにくい背景には、本人の「やる気」や「性格」だけでは説明できない困りごとがある場合があります。
まずは、どのような場面でつまずきやすいのかを理解することが、本人に合った働き方や支援を考える第一歩になります。
暗黙のルールや職場の空気が読み取りにくい
職場には、言葉にして説明されないルールが多くあります。
たとえば「忙しそうなときは話しかけない」「報告は上司の様子を見て行う」といった、いわゆる空気を読む行動です。多くの人が経験の中で身につけていくことでも、知的障害のある方にとっては分かりにくい場合があります。
「なんとなく察する」という感覚的な理解が苦手な場合、悪気がなくても周囲との認識にズレが生じることがあります。その結果、「協調性がない」「注意しても分かっていない」と誤解され、人間関係の負担につながることもあります。
口頭だけの指示を記憶・理解するのが難しい
知的障害のある方の中には、耳で聞いた情報を頭の中で整理したり、覚えておいたりすることが苦手な方もいます。
「さっき言ったよね」と言われるような場面でも、本人が怠けているとは限りません。聞いた内容を記憶にとどめることや、複数の手順を順番に理解することに難しさがある場合があります。
特に、複数の作業を一度に口頭で伝えられると、後半の内容が頭に残りにくくなることがあります。メモを取ろうとしても、書く速度が追いつかなかったり、何を書けばよいか判断しにくかったりすることもあります。
こうした状況が続くと、「自分は仕事ができない」と感じやすくなり、職場にいること自体がつらくなる場合もあります。
複数の作業を同時にこなすマルチタスクに対応しにくい
知的障害のある方は、複数のことを同時に処理するマルチタスクが負担になりやすいことがあります。
たとえば「電話を受けながらメモを取り、内容を整理して担当者に伝える」といった作業は、一般的な職場では求められる場面があります。しかし、同時に複数の判断や動作が必要になると、どの作業を優先すればよいか分からなくなることがあります。
一つの作業に集中できる環境であれば取り組みやすい仕事でも、複数の対応が重なると難しくなる場合があります。これは本人の能力だけの問題ではなく、作業の任せ方や職場環境が合っていない可能性もあります。
変化や想定外の出来事に戸惑いやすい
「今日は予定が変わったので、別の業務をお願いします」という一言が、大きなストレスになることがあります。
知的障害のある方の中には、毎日の流れや決まった手順があることで安心して取り組める方もいます。そのため、急な予定変更や突発的なトラブルが起きると、どう対処すればよいか分からず混乱しやすい場合があります。
周囲には小さな変更に見えても、本人にとっては大きな負担になることがあります。こうした状況が続くと、職場に行くことへの不安が強くなり、欠勤や離職につながることもあります。
周囲の無理解や配慮不足がストレスにつながる
本人の特性だけでなく、職場側の理解不足も仕事が続きにくくなる要因の一つです。
「もっとしっかりやってほしい」「なぜ同じミスを繰り返すのか」といった言葉を何度も受けると、本人は強い心理的負担を感じることがあります。障害特性を踏まえた関わり方がない職場では、本人が努力していても成果につながりにくい場合があります。
仕事が続かない原因は、本人だけにあるとは限りません。職場環境や指示の出し方、周囲の理解も含めて考えることが大切です。
仕事が続かないのは「育て方のせい」ではない
家族や保護者の中には、「自分の関わり方が悪かったのではないか」と自分を責めてしまう方もいるかもしれません。
しかし、仕事が続かないことを育て方だけに結びつける必要はありません。背景には、障害特性や環境との相性、支援体制の不足など、複数の要因が関係している場合があります。
仕事が続かない背景には障害特性が関係することがある
知的障害とは、知的機能や適応機能に制約があり、日常生活や社会生活の中で支援が必要になる状態を指します。適応機能とは、生活上の判断、人とのやり取り、社会の中で必要な行動などに関わる力のことです。
仕事の場面で「できないこと」が目立つ場合も、本人の努力不足ではなく、特性と職場環境が合っていないことが関係している可能性があります。
正しい知識を持つことで、「なぜうまくいかないのか」を感情だけで受け止めるのではなく、具体的な支援や環境調整として考えやすくなります。
本人が「サボっている」わけでも「やる気がない」わけでもない
仕事でミスが続いたり、指示どおりに動けなかったりすると、周囲から「やる気がないのでは」と見られてしまうことがあります。
しかし、本人は一生懸命取り組んでいる場合も少なくありません。ただ、記憶の定着が難しかったり、状況の判断に時間がかかったりすることで、周囲が期待するスピードや正確さに届きにくいことがあります。
「怠けている」と決めつけると、本人の自己肯定感を傷つけてしまう可能性があります。まずは、どのような場面で困りやすいのかを一緒に整理することが大切です。
特性を理解することが前向きな一歩につながる
障害特性を理解することは、本人を無理に変えようとすることではありません。本人が力を発揮しやすい環境を整えるための土台になります。
たとえば、口頭指示が苦手であれば文字や写真で伝える、マルチタスクが難しい場合は作業を一つずつ分けるといった対応が考えられます。
「なぜできないのか」だけで考えるのではなく、「どうすれば取り組みやすくなるか」という視点を持つことで、次の選択肢が見えやすくなります。
知的障害のある方が仕事を続けるための職場環境の整え方
職場環境を少し工夫することで、仕事を続けやすくなる場合があります。ここでは、取り入れやすい環境整備の方法を紹介します。
手順を視覚化したマニュアルを用意する
作業の手順は、文字だけでなく、図や写真を使って目で見て分かる形にまとめると理解しやすくなります。
たとえば「棚の商品を補充する」という業務であれば、どの棚に置くのか、どの向きに並べるのか、完成した状態はどうなっているのかを写真で示す方法があります。
視覚的なマニュアルがあると、本人が作業中に確認しながら進めやすくなります。マニュアルは一度作って終わりではなく、本人がつまずきやすい部分に合わせて見直していくことが大切です。
業務をシングルタスクに分けて任せる
複数の作業を同時に行うことが難しい場合は、一つずつ順番に取り組める形に整えることが有効です。
「Aを終わらせてから、次にBをする」というように、作業を明確に分けて伝えると、本人が迷いにくくなります。優先順位も本人だけで判断しなくて済むよう、あらかじめリストにして渡すと安心です。
一つの作業を最後までやり切る経験を積み重ねることで、本人の自信につながる場合もあります。
指示は短く・具体的に・確認しながら伝える
口頭指示は、できるだけ短く、具体的な言葉で伝えることが大切です。
「あの棚のものを適当に整理しておいて」ではなく、「右の棚の本を、背表紙が見えるように並べてください」というように、何をどうするのかを明確にします。
一度伝えただけでは定着しにくい場合もあります。そのため、必要に応じて同じ内容を確認しながら伝える姿勢が大切です。「また聞いてきた」と受け止めるのではなく、「確認できてよかった」と考えることで、本人も安心して質問しやすくなります。
体調や気持ちを確認できる定期的な面談を設ける
仕事上の困りごとや体調の変化を、本人が自分から伝えることは難しい場合があります。
そのため、定期的に短い面談の時間を設けることも一つの方法です。「最近どうですか」という漠然とした聞き方より、「今週つらかったことはありますか」「分からなかった作業はありましたか」と具体的に聞くほうが、本人も答えやすくなります。
困りごとが小さいうちに気づくことで、欠勤や退職につながる前に対応を考えやすくなります。定期的な面談は、安心して働き続けるための仕組みの一つです。
仕事が続かないときに活用したい外部支援
職場内の工夫だけで対応が難しい場合は、外部の支援機関を活用することも大切です。
本人や家族だけで抱え込まず、就労支援に詳しい機関へ相談することで、次の選択肢を考えやすくなります。
ジョブコーチに職場との橋渡し役を担ってもらう
ジョブコーチとは、障害のある方が職場に適応しやすくなるよう、職場に出向いて支援を行う専門的な支援者です。
本人への支援だけでなく、職場の上司や同僚に対して、どのように指示を出すと伝わりやすいか、どのような配慮があると働きやすいかを助言することもあります。
ジョブコーチ支援は、地域障害者職業センターなどが関わる場合があります。利用方法や支援内容は地域や状況によって異なるため、ハローワークの障害者専門窓口や地域障害者職業センターに相談して確認するとよいでしょう。
ハローワークの障害者専門窓口で相談する
ハローワークには、障害のある方の就職を支援する専門窓口があります。
求人の紹介だけでなく、今の職場で困っていることや、次の仕事探しをどう進めるかについて相談できる場合があります。障害者雇用に関する情報を得られるため、一般の窓口だけで探すよりも、本人の状況に合った選択肢を考えやすくなります。
相談方法や予約の必要性は地域のハローワークによって異なるため、事前に確認しておくと安心です。
障害者就業・生活支援センターで継続的なサポートを受ける
障害者就業・生活支援センターは、就業面と生活面の両方について相談できる支援機関です。
仕事が続かない背景には、生活リズムの乱れ、金銭管理の難しさ、通勤や体調管理の負担など、生活面の課題が関係していることもあります。
障害者就業・生活支援センターでは、関係機関と連携しながら、身近な地域で就業面と生活面の一体的な支援を行っています。就職前だけでなく、就職後の不安を相談できる場合もあるため、継続的な支援先として知っておくとよいでしょう。
一般就労にこだわらない働き方の選択肢を知る
「一般企業で働くこと」だけが、働き方のすべてではありません。
知的障害のある方が無理なく社会とつながる方法として、就労移行支援や就労継続支援といった障害福祉サービスを利用する選択肢もあります。
就労移行支援で働くための力を身につける
就労移行支援は、一般企業への就職を目指す障害のある方が、働くために必要な知識やスキルを身につけるための障害福祉サービスです。
通所しながら、ビジネスマナー、作業訓練、職場実習、就職活動の準備などに取り組みます。「今すぐ働くのは不安だけれど、将来的には一般就労を目指したい」という方にとって、準備期間として活用しやすいサービスです。
利用期間は原則として2年間です。ただし、利用の可否や具体的な支援内容は本人の状況や自治体の判断によって異なるため、相談支援専門員や自治体窓口に確認することが大切です。
就労継続支援A型で雇用契約を結びながら働く
就労継続支援A型は、一般企業での就労が難しい方が、事業所と雇用契約を結び、支援を受けながら働く障害福祉サービスです。
雇用契約を結ぶため、原則として労働関係法令が適用され、最低賃金も関係します。一般企業に近い働き方をしながら、障害特性に応じた配慮を受けやすい点が特徴です。
作業内容は、カフェ運営、農業、データ入力、製品の梱包など、事業所によって異なります。「支援を受けながら、雇用契約のある形で働きたい」という方にとって、選択肢の一つになります。
就労継続支援B型で自分のペースに合わせて社会とつながる
就労継続支援B型は、雇用契約を結ばず、生産活動などの機会を通じて働く力や生活リズムを整えていく障害福祉サービスです。
利用日数や作業時間は、本人の状態や事業所の方針、個別支援計画によって異なります。体調や生活リズムに不安がある方でも、段階的に通所を始められる場合があります。
B型では、作業に応じて工賃が支払われます。ただし、雇用契約を結ばないため、最低賃金の対象ではありません。「まずは外に出る機会をつくりたい」「自分のペースで作業に取り組みたい」という方にとって、大切な社会参加の場になることがあります。
次の職場選びで確認したいポイント
仕事が続かなかった経験を次に活かすためには、職場選びの段階で確認しておきたい点があります。
本人の努力だけに頼るのではなく、職場環境や支援体制が合っているかを見極めることが大切です。
合理的配慮を具体的に相談できる職場か確認する
合理的配慮とは、障害のある方が働くうえで不利益を受けにくくするために、職場が個別に行う調整や工夫のことです。
雇用分野では、障害者雇用促進法により、事業主に合理的配慮の提供が義務づけられています。ただし、具体的にどのような配慮が必要かは、本人の状況や業務内容によって異なります。
面接や職場見学の段階では、「作業手順を写真で示してもらえるか」「複数の作業を同時に任せない形にできるか」「困ったときに誰へ相談すればよいか」など、具体的に確認しておくと安心です。
言葉だけで「配慮します」と言われるよりも、具体的な対応を一緒に考えてくれる職場のほうが、入職後のミスマッチを減らしやすくなります。
業務内容が本人の得意・不得意と合っているか見極める
長く働き続けるためには、業務内容が本人の得意・不得意と合っているかを確認することが大切です。
たとえば、手順が決まっていて同じ流れで進められる作業は取り組みやすい場合があります。一方で、臨機応変な対応や複雑な判断が続く仕事は、負担が大きくなることがあります。
事前に「得意なこと」「苦手なこと」「配慮があると取り組みやすいこと」を整理しておくと、職場見学や実習のときに確認しやすくなります。
支援機関と連携して職場探しを進める
職場探しを本人や家族だけで進めるのではなく、支援機関と連携することも有効です。
就労移行支援事業所、ハローワークの障害者専門窓口、障害者就業・生活支援センターなどでは、本人の状況を踏まえながら、働き方や職場選びについて相談できる場合があります。
就職後に困りごとが出てきたときも、支援機関とつながっていれば相談先を確保しやすくなります。「自分たちだけで何とかしなければ」と抱え込まず、専門的な支援を活用しながら、本人に合った職場を探していきましょう。
まとめ|仕事が続かない原因を理解して本人に合った働き方を考えよう
知的障害のある方が仕事を続けにくい背景には、本人の努力不足だけでなく、障害特性や職場環境との相性が関係している場合があります。
暗黙のルールの分かりにくさ、口頭指示の理解や記憶の難しさ、マルチタスクへの負担、急な変化への戸惑いなどが重なると、働き続けることが大きな負担になることがあります。
仕事が続かないと感じたときは、視覚的なマニュアルの整備、作業のシングルタスク化、定期的な面談など、職場環境を整える工夫が役立つ場合があります。また、ジョブコーチ、ハローワーク、障害者就業・生活支援センターなどの支援機関を活用することも大切です。
一般就労にこだわりすぎる必要はありません。就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型など、本人の状態や希望に合わせて選べる働き方もあります。
まずは「なぜ続かないのか」を責めるのではなく、本人にとってどのような環境なら力を発揮しやすいのかを考えることから始めてみましょう。
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