「薬を飲んでいるのに、一日中横になっている」「話しかけても反応が少なく、このままでよいのだろうか」と不安になる家族の方もいるでしょう。
統合失調症の陰性症状では、意欲が湧きにくい、感情が表れにくい、会話や人との関わりが減るといった変化がみられることがあります。これらは単なる怠けや本人の努力不足ではありません。
一方で、活動量の低下や強い眠気には、陰性症状だけでなく、抑うつ状態、薬の副作用、睡眠の問題、身体的な不調などが関係している場合もあります。家族だけで原因を決めつけず、変化を主治医や支援者と共有することが大切です。
本記事では、統合失調症の陰性症状の基本的な特徴、家庭での過ごし方、家族が避けたい関わり、医療・福祉サービス、経済的な支援制度について解説します。この記事は一般的な情報であり、個別の診断や治療方針については主治医に確認してください。
統合失調症の陰性症状とは
統合失調症には複数の症状がある
統合失調症の症状として、代表的なものに陽性症状、陰性症状、認知機能に関する症状などがあります。
- 陽性症状:幻聴、妄想、考えのまとまりにくさなど、健康なときにはなかった体験や状態が現れる症状
- 陰性症状:意欲、感情表現、会話、人との関わりなどが少なくなる症状
- 認知機能に関する症状:集中、記憶、計画、判断、問題解決などが難しくなる症状
現れ方や程度は人によって異なり、複数の症状が重なっていることもあります。
統合失調症の症状や治療については、国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」でも確認できます。
陰性症状でみられる主な変化
陰性症状では、次のような変化がみられることがあります。
- 物事を始める意欲が湧きにくい
- 以前楽しんでいたことへの関心が薄れる
- 表情や感情表現が少なくなる
- 会話の量や返答が減る
- 人との関わりを避けるようになる
- 着替え、入浴、食事の準備などに取りかかりにくくなる
外から見ると「何もする気がない」「声をかけても反応しない」と感じられることがありますが、本人の性格や意思だけで説明できるものではありません。
陰性症状に見える別の状態にも注意する
活動量の低下や会話の減少が、すべて陰性症状とは限りません。次のような状態でも、似た変化が現れる場合があります。
- 抑うつ状態や強い不安
- 薬による眠気、だるさ、動きにくさ
- 幻聴や妄想への強いとらわれ
- 昼夜逆転や睡眠不足
- 貧血、感染症、甲状腺疾患などの身体的な不調
- 周囲の刺激や人間関係による疲労
以前より急に活動できなくなった、薬を変更してから眠気が強くなった、食事や水分がとれなくなったなどの変化がある場合は、陰性症状だと決めつけず、主治医に相談してください。
陰性症状が続く期間には個人差がある
陰性症状の経過には大きな個人差があります。比較的短い期間で変化がみられる人もいれば、長期にわたって症状が残る人もいます。
治療の内容、生活環境、併存する症状、薬の副作用、本人が受けられる支援などによっても経過は異なります。「いつまでに良くなる」と一律に示すことはできません。
変化が乏しい場合でも、自己判断で服薬を中止したり量を変えたりせず、現在の状態や困っていることを主治医に伝えることが重要です。
統合失調症の陰性症状がある時期の過ごし方
休息の必要性は本人の状態によって異なる
急性期の症状や強い疲労の後には、休息が必要になることがあります。ただし、「一日中横になっていればよい」「活動しないことが回復に必要」と一律に考えることはできません。
長時間眠り続ける、食事や水分をほとんどとらない、昼夜が完全に逆転する、身の回りのことが急にできなくなるといった状態は、治療内容の見直しや追加の支援が必要なサインである可能性もあります。
本人を無理に起こしたり責めたりすることは避けながら、睡眠時間、食事、服薬、会話、活動量などの変化を記録し、診察時に伝えると状況を整理しやすくなります。
生活リズムは強制せず、できる範囲から整える
食事や睡眠の時間を厳しく管理すると、本人の負担になる場合があります。一方で、生活リズムの乱れを長期間そのままにすることが適切とは限りません。
本人の状態に合わせて、次のような小さな工夫から検討します。
- 食事を無理に急かさず、食べられそうな時間に用意する
- 朝はカーテンを開け、昼夜の区別がつきやすい環境を作る
- 一度に複数の予定を入れない
- 本人が負担に感じる音や人の出入りを減らす
- できたことを細かく評価しすぎず、自然に受け止める
生活リズムをどの程度整えるかは、本人の症状や治療段階によって異なります。主治医、看護師、作業療法士、精神保健福祉士などと相談しながら進めると安心です。
早めに医療機関へ相談したい変化
次のような状態がみられる場合は、通常の診察日を待たず、主治医や医療機関へ早めに連絡してください。
- 幻聴や妄想が急に強くなった
- 何日もほとんど眠れていない
- 食事や水分が十分にとれない
- 薬を急に中断した、または過量に服用した可能性がある
- 「死にたい」「消えたい」などの発言がある
- 自分や他人を傷つけるおそれがある
- ほとんど反応せず、動けない状態が続いている
- 発熱、意識の変化、強い震えなどの身体症状がある
本人や周囲の生命に危険が迫っている場合は、地域の救急医療機関などへ緊急の支援を求めてください。
陰性症状のある家族に避けたい関わり方
急かしたり、努力不足と決めつけたりする
「少しは動いたら」「いつまで寝ているの」「やる気を出して」といった言葉は、本人にとって責められているように感じられる場合があります。
本人が活動できない背景には症状や薬の影響などがあるため、努力や気合いだけで解決できるとは限りません。できない理由を本人の性格に結びつけないことが大切です。
他人や発症前の状態と比べる
「同じ病気の人は働いている」「以前はできていた」と比べても、本人の状態を良くすることにはつながりません。
統合失調症の経過は人によって異なります。以前の状態に戻すことだけを目標にせず、現在の状態からどのような生活を望むかを本人、家族、支援者で考えることが重要です。
過度に監視する
家族が心配するのは自然なことですが、頻繁に部屋を確認したり、何度も体調を尋ねたりすると、本人が負担を感じる場合があります。
ただし、完全に放置するのではなく、安全や食事、服薬、症状の変化を必要な範囲で確認します。適切な距離は本人の状態や家族関係によって異なるため、主治医や訪問看護などに相談しながら調整してください。
本人の負担になりにくい声かけの例
声かけに一つの正解があるわけではありませんが、短く、具体的で、本人が断れる伝え方が基本です。
避けたい声かけ
- 「いつまで寝ているの?」
- 「もっと頑張らないと」
- 「みんな心配しているんだから動いて」
- 「薬を飲んでいるのに、どうして良くならないの?」
- 「前はできていたでしょう」
伝え方を変えた例
- 「今は休みたい感じかな」
- 「食べられそうなものがあれば教えてね」
- 「困っていることがあったら、一緒に考えるよ」
- 「眠気が強そうだから、次の診察で先生に相談してみようか」
- 「今日はここまでにして、続きはまた考えよう」
声をかけても返事がないことがあります。返事を強く求めず、必要なことを簡潔に伝えて少し時間を置く方法もあります。
家族自身も支援を受けることが大切
統合失調症の治療や生活支援が長期にわたると、家族も疲労や不安を抱えやすくなります。家族だけですべてを支えようとすると、本人と家族の双方に負担がかかります。
家族が利用できる相談先には、次のようなものがあります。
- 主治医や医療機関の精神保健福祉士
- 相談支援事業所
- 保健所
- 精神保健福祉センター
- 地域活動支援センター
- 家族会や家族向けの心理教育プログラム
家族心理教育では、病気や治療に関する情報を学び、本人との関わり方や家族自身の負担について支援者と一緒に考えます。実施状況は医療機関や地域によって異なるため、主治医や精神保健福祉士に確認してください。
状態の変化をどう捉えるか
小さな変化だけで回復段階を決めない
食欲が戻る、返答が増える、興味を示す、起きている時間が増えるといった変化は、状態を知る参考になります。
ただし、一日だけ活動できたからといって、すぐに活動量を大きく増やす必要はありません。反対に、活動できない日があっても、それだけで悪化したとは限りません。
次のような変化を継続的に確認し、診察や支援の場で共有するとよいでしょう。
- 睡眠時間と起床時間
- 食事や水分の量
- 服薬状況と副作用と思われる変化
- 会話や表情の変化
- 本人が関心を示したこと
- 活動後の疲れ方
- 幻聴や妄想、不安の変化
活動は本人と相談しながら少量から始める
活動を始める時期や量に、すべての人に共通する基準はありません。「週1回ならよい」「できる量の3分の1なら安全」と一律に決めず、本人の希望と体調に合わせます。
最初は、次のような負担の少ない活動から検討できます。
- 好きな飲み物を選ぶ
- 家の前やベランダで外の空気に触れる
- 短時間だけ好きな音楽や番組を楽しむ
- 一緒に簡単な食事を用意する
- 本人が希望する場合に短い散歩をする
活動後に強い疲労が続く、睡眠が乱れる、幻聴や不安が強くなるといった変化があれば、活動量を減らして主治医や支援者に相談します。
陰性症状のある人が利用を検討できる支援4選
利用に適したサービスは、症状の程度、生活状況、本人の希望によって異なります。家族だけで利用先を決めるのではなく、本人、主治医、相談支援専門員などと話し合いながら検討してください。
1.精神科デイケア
精神科デイケアは、医療機関などに通い、生活や社会参加に向けたプログラムを受ける医療サービスです。
プログラムには、軽い運動、創作活動、生活技能の練習、対人関係の練習、疾病理解のための学習などがあります。内容、対象者、通所頻度は医療機関によって異なります。
生活リズムや対人関係に関する支援が期待できますが、効果や合うプログラムには個人差があります。現在の状態で参加できるか、主治医やデイケア担当者に確認することが大切です。
2.精神科訪問看護
精神科訪問看護は、主治医の指示に基づき、看護師などが自宅を訪問して療養生活を支える医療サービスです。
事業所や本人の状況によって、次のような支援が行われます。
- 症状や体調の確認
- 服薬を続けるための相談
- 睡眠や食事など生活上の相談
- 通院や外出に向けた支援
- 本人と家族の不安に関する相談
- 医療機関や福祉サービスとの連絡調整
利用には主治医の指示が必要です。訪問回数、担当職種、利用できる保険制度などは状態や事業所によって異なります。
3.自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、地域で生活するために必要な生活能力の維持・向上を支援する障害福祉サービスです。
通所や居宅への訪問などにより、食事、掃除、金銭管理、服薬、対人関係、外出などについて、本人の目標に合わせた支援を受けます。
利用対象、利用期間、通所日数、支援内容は本人の状況や自治体、事業所によって異なります。市区町村の障害福祉窓口や相談支援事業所へ相談してください。
4.就労継続支援B型
就労継続支援B型は、一般企業などで雇用契約に基づいて働くことが難しい人に対して、生産活動などの機会と、就労に必要な知識・能力の維持や向上に向けた支援を提供する障害福祉サービスです。
利用者と事業所の間で雇用契約は結ばず、生産活動に応じて工賃が支払われます。作業内容には、軽作業、清掃、製造、農作業、パソコン作業、創作活動などがあり、事業所によって異なります。
就労継続支援B型は、すべての陰性症状のある人にすぐ適しているわけではありません。通所や作業が負担になる時期もあるため、本人の希望、体調、生活リズムなどを踏まえて利用を検討します。
制度上のサービス内容は、厚生労働省「障害福祉サービスの内容」で確認できます。
サービス利用の相談先と手続き
精神科デイケア・精神科訪問看護を利用する場合
精神科デイケアと精神科訪問看護は医療サービスです。まずは主治医または通院先の精神保健福祉士へ相談します。
主な流れは次のとおりです。
- 主治医に現在の症状や生活上の困りごとを伝える
- 利用が適しているか相談する
- デイケアを行う医療機関や訪問看護事業所を確認する
- 見学、面談、医師の指示など必要な手続きを行う
- 利用回数や目標を相談して開始する
具体的な手続きは医療機関や訪問看護事業所によって異なります。
自立訓練・就労継続支援B型を利用する場合
自立訓練と就労継続支援B型は、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスです。市区町村の障害福祉窓口や相談支援事業所へ相談します。
一般的には、次のような流れで進みます。
- 市区町村の窓口や相談支援事業所へ相談する
- 利用したいサービスや生活上の希望を伝える
- 市区町村へ申請する
- 本人の状況や支援の必要性について調査を受ける
- 必要に応じてサービス等利用計画案を作成する
- 市区町村から支給決定と受給者証の交付を受ける
- 利用する事業所を選び、契約する
新たに就労継続支援B型を利用する場合は、原則として利用前に就労選択支援を利用し、本人の希望、就労能力、適性などについてアセスメントを受けます。ただし、50歳に達している人、障害基礎年金1級を受給している人、就労経験があり年齢や体力の面で一般企業に雇用されることが困難になった人などは、就労選択支援を経ずに利用できる場合があります。また、近隣に利用可能な就労選択支援事業所がない場合などには、就労移行支援事業所等による就労アセスメントを経て利用が認められる場合があります。手帳の有無だけで利用可否が決まるわけではありません。具体的な対象要件や手続きは市区町村に確認してください。
医療費や生活を支える制度
自立支援医療(精神通院医療)
自立支援医療(精神通院医療)は、継続的な精神科の通院治療が必要な人の自己負担を軽減する制度です。
対象となる医療では、原則として自己負担が医療費の1割となり、所得などに応じた月額負担上限が設けられる場合があります。ただし、指定された医療機関、薬局、訪問看護事業所などで受ける対象医療に限られます。
申請方法、必要書類、対象となる医療機関は自治体によって確認が必要です。詳しくは、厚生労働省「自立支援医療(精神通院医療)の概要」または市区町村の担当窓口を確認してください。
精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳は、一定程度の精神障害の状態にあることを認定する制度です。精神疾患の状態と、日常生活・社会生活への影響を総合的に判断し、1級から3級に区分されます。
手帳によって利用できる支援には、税制上の控除、公共料金や交通機関の割引、自治体独自のサービス、障害者雇用への応募などがあります。利用できる内容や条件は、自治体や事業者によって異なります。
なお、障害福祉サービスは、手帳がなければ一切利用できないという制度ではありません。サービスごとの対象要件と本人の状況に基づいて判断されます。
制度の概要は、厚生労働省「障害者手帳について」で確認できます。
障害年金
障害年金は、病気やけがによって日常生活や仕事が大きく制限される場合に、一定の要件を満たすことで受け取れる可能性がある公的年金です。統合失調症も対象となる可能性がありますが、病名だけで受給が決まるものではありません。
主に次の点が確認されます。
- 障害の原因となった病気について初めて医師などの診療を受けた日
- 初診日に加入していた年金制度
- 保険料の納付状況
- 障害認定日や請求時点での日常生活・就労への影響
障害基礎年金は1級・2級、障害厚生年金は1級から3級があります。精神障害者保健福祉手帳の等級とは別の基準で審査されます。
初診日は、必ずしも最初に精神科を受診した日とは限りません。現在の症状につながる病気について、最初に医師の診療を受けた日を確認します。
申請を検討する場合は、年金事務所、市区町村の国民年金窓口、医療機関の精神保健福祉士、障害年金に詳しい社会保険労務士などへ相談してください。
まとめ|陰性症状と決めつけず、本人に合った治療と支援を考える
統合失調症の陰性症状では、意欲の低下、感情表現の減少、会話や人との関わりの減少などがみられることがあります。これらは本人の怠けや努力不足だけで説明できるものではありません。
ただし、一日中横になっている、強い眠気がある、身の回りのことができないといった状態には、薬の副作用、抑うつ状態、睡眠の問題、身体的な不調などが関係している場合もあります。家族だけで陰性症状と判断せず、主治医に状態を伝えることが大切です。
家族は、本人を急かしたり他人と比べたりせず、短く具体的な声かけを心がけます。同時に、食事や水分がとれない、症状が急に強くなった、自分を傷つけるような発言があるなどの変化を見逃さないことも重要です。
精神科デイケア、精神科訪問看護、自立訓練、就労継続支援B型など、利用を検討できる支援は複数あります。医療サービスと障害福祉サービスでは相談先や手続きが異なるため、主治医、市区町村の障害福祉窓口、相談支援事業所などに確認してください。
本人の状態や希望に合った治療と支援を組み合わせ、家族も一人で抱え込まずに支援者と相談しながら関わっていくことが大切です。
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